院生と物理学と+α

大学院生(専攻は相対論と量子情報)が学んだこととかつらつら書いていきます

ブラックホールを用いたタイムマシンについて(その1)

古今東西SFものの定番であるタイムマシンについて数回にわけて少し真面目に解説?します。

今回はとりあえず紹介で、次回以降数式でちゃんと追っていこうと思います。

学部生でも十分追えるというか擬リーマン幾何をある程度知っていれば読めると思います。

全然関係ないですが僕はBack To The Futureが今まで観たSF映画の中で一番好きです。


まず最初にどの枠組みでタイムマシンを考えるかをはっきり述べておくと、一般相対論の範疇です。量子力学は考えないことにします。

一般相対論の範囲では、光速を超えることなくタイムトラベル可能な領域が存在します。

(いずれ述べますが実際にするには色々と困難があります)

その代表例が、ブラックホールの一つであるKerrブラックホールです。

このブラックホールは質量と角運動量で特徴づけられるブラックホールで、4次元ではこのKerrブラックホールがそのようなパラメーターで表される唯一の解であることが数学的に証明されています。(唯一性定理)

結論を先に述べておきます。

時空のある領域${\rm I\hspace{-.1em}I\hspace{-.1em}I}$にタイムマシンが存在するとは、次の命題が成り立つことである。

[命題]
\begin{equation}
^{\forall}p,q\in {\rm I\hspace{-.1em}I\hspace{-.1em}I},\;\;^{\exists}\alpha\subset{\rm I\hspace{-.1em}I\hspace{-.1em}I}:p{\rm から}q{\rm に向かう未来向きtimelike\ curve}
\end{equation}


(なぜ記号が${\rm I\hspace{-.1em}I\hspace{-.1em}I}$なのかは後で分かります。)

これは直感的には、未来に進んでたはずなのに過去に戻っているという現象が起こせるということです。

この命題は本質的に、Kerrブラックホールのある領域でCTC(closed timelike curve)が存在することが全てです。

"閉じた時間的曲線"の存在は明らかに因果律を破ります。

このKerrブラックホールのある領域で、CTCが存在することを指摘したのはCarterの1968年の論文で、Carter Time Machineと呼ばれます。

このような曲線が存在することは数学的に示されるのですが、実際にできるかは、

①まず、そのような曲線が存在する領域に到達することが可能か?

②そのような領域は安定に存在するか?

等考えなければいけません。

ちなみに映画John TitorはこのKerrブラックホールのCarter Time Machineを使っているらしいです。(すいません観たことないので…)
ゲームSteins Gateでもタイターと同じ理論と語られていました。

Kerrブラックホールでも、パラメータの大小によって振舞いが変わるので、その辺りも次回以降紹介したいと思います。

(ちなみにさらに電荷をもたせたKerr-Newmanブラックホールでも(少し種類は違いますが)CTCが存在します。)